クロとの出会い|車の中にいた大きな犬

車の中の犬 暮らし

以前、シャケをくわえて逃げた猫「トラ」との出会いについて書きました。

実はトラが家族になった後、我が家にはもう一匹大切な家族が増えます。

それがイングリッシュセッターの「クロ」。

今回は、私が子どもの頃に出会ったクロとの思い出についてお話したいと思います。


保育園のお迎えで出会った大きな犬

私が保育園の年長さんだった頃のことです。

いつものように母が保育園へ迎えに来ました。

手をつないで車へ向かい、助手席へ乗り込みます。

そして家へ向けて車が走り出しました。

その時でした。

運転席と助手席の間から、

「ふんっ」

と大きな鼻息が私の耳に直撃したのです。

びっくりして横を見ると、そこには大きな犬がいました。

しかも満面の笑顔で、ベロを出しながらこちらを見ています。

私は思わず固まりました。

初めてこんなに大きな犬と近い距離で触れ合ったのです。

母は大笑いしながら言いました。

「怖くないよ。」

でも当時の私は、

「いや、怖いから。」

と思っていました。

その時の光景は今でも鮮明に覚えています。


母の職場に現れた迷い犬

後から聞いた話によると、その犬は母の職場へ迷い込んできたそうです。

犬種はイングリッシュセッター。

病院で診てもらうと推定一歳ほどでした。

当時の私には分かりませんでしたが、母は

「こんな立派な犬が野良犬のはずがない。」

と思ったそうです。

きっと誰かが探している。

そう考えた母は警察へ届け出を出し、散歩へ行くたびに近所の人へ声をかけていました。

「この子を保護しています。」

「飼い主さんを知りませんか?」

でも、何日経っても飼い主は現れませんでした。


雷の日に起きた出来事

ある日、クロを連れて散歩に出かけました。

夏の夕方だったと思います。

空には黒い雲が広がり始め、今にも雨が降り出しそうな空模様でした。

しばらく歩いていると突然、大粒の雨が降り始めます。

そして空がピカッと光りました。

次の瞬間、

ものすごい音の雷が鳴り響いたのです。

その瞬間でした。

クロは驚いたようにリードを強く引っ張り、一気に走り出しました。

あっという間に姿は見えなくなってしまいます。

必死に探しましたが見つかりません。

結局、諦めて家へ戻ることになりました。

すると家では、

母がクロをお風呂に入れて体を拭いていたのです。

クロは何事もなかったような顔をしています。

まだ我が家へ来てそれほど経っていないのに、一人で家へ帰ってきていたのです。

私は思わず笑ってしまいました。

「まだ何日も経っていないのに、家が分かるんだ。」

クロはその頃から、もう家族になるつもりだったのかもしれません。


クロという家族

その後も飼い主は現れませんでした。

そしてクロは正式に我が家の家族になります。

当時はまだ外飼育が当たり前だった時代。

クロも大きな犬小屋で暮らしていました。

私はよく犬小屋の中へ入り、一緒に遊んでいました。

おままごとのようなことをしたり、

話しかけたり、

時には隣で昼寝をしたり。

今思うと、クロは犬というより友達だったのかもしれません。


母の背中を見て育った

今思うと、我が家で動物を迎えるきっかけはいつも母でした。

「犬を飼いたい。」

「猫を飼いたい。」

そうやって私がお願いした記憶はほとんどありません。

気づけば家族が増えていた。

そんな感覚です。

そして不思議なことに、

母から

「散歩に行きなさい。」

「ご飯をあげなさい。」

「お世話をしなさい。」

と言われた記憶もありません。

母は毎日当たり前のように動物たちのお世話をしていました。

ご飯を用意すること。

体調を気にかけること。

病院へ連れて行くこと。

それらは特別なことではなく、暮らしの一部でした。

だから私も自然と手伝うようになりました。

お世話をすることを面倒だと思ったことはありません。

息をするのと同じくらい自然なことだったのです。

今の私が犬や猫たちと暮らしているのも、きっと母の背中を見て育ったからなのだと思います。


時代が違ったからこその出会い

今振り返ると、クロは猟犬だったのかもしれません。

私の地元はとても田舎で、昔は猟友会の方たちが猟犬を連れて山へ入ることも珍しくありませんでした。

狩猟の時期になると、遠くから発砲音が聞こえてくることもありました。

そんな土地柄だったので、母の職場へ突然現れたイングリッシュセッターのクロも、もしかしたら猟犬だったのではないかと思うことがあります。

もちろん本当のことは分かりません。

ただ、後になって猟友会の方から話を聞く機会がありました。

昔は今ほど動物福祉や飼育マナーが整っておらず、犬笛で呼び戻しても戻らなかった犬が、そのまま置いていかれてしまうこともあったそうです。

クロがそうだったのかは分かりません。

県外から来ていた人の犬だったのかもしれませんし、本当に迷子だっただけなのかもしれません。

真実はクロにしか分かりません。

ただ、クロが母の職場へ現れたこと。

そして私たち家族と出会ったこと。

それだけは確かな事実です。

後にクロは赤ちゃんを産みました。

その子犬たちの里親探しをした時、猟友会の方たちが何組か迎えてくださったことがあります。

「こんな良いイングリッシュセッターの血が入った子犬を無償で譲ってもらっていいのですか?」

そう驚かれたこともありました。

今では考えられませんが、当時は夜になると近所の犬たちが自由に歩き回っているような時代でした。

今のように避妊・去勢が当たり前ではなく、飼育に対する考え方も大きく違っていました。

だからこそ私は、動物たちが家族として大切にされる今の時代になって本当に良かったと思っています。

それでも、そんな時代だったからこそクロと出会えたのかもしれません。

そう思うと、この不思議なご縁に感謝したくなるのです。


おわりに

クロは私が中学校を卒業した数か月後、虹の橋を渡りました。

推定十歳でした。

決して長生きではなかったのかもしれません。

クロは、私の人生で初めて出会った犬でした。

保育園のお迎えの帰り道。

突然車の中にいた大きな犬。

あの日驚いて固まっていた私に、

まさか十年以上も一緒に暮らす家族になるとは想像もできませんでした。

迷い犬として母の職場に現れたクロ。

どうして我が家へ来たのか、本当のことは今でも分かりません。

でも結果的にクロは家族になり、

たくさんの思い出を残してくれました。

今でもクロのことを思い出すと、

最初に浮かぶのは車の中でこちらを見ていたあの笑顔です。

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